高額薬剤『オプジーボ』の適応追加で起こる市場拡大と、薬価引き下げの議論


 C型肝炎治療薬『ハーボニー配合錠(一般名:ソホスブビル + レジパスビル)』や新しい抗がん剤、脂質異常症の薬などの画期的な新薬が登場する一方、これらの高額な薬剤が国の医療費へ大きな負担をかけていることが問題となっています。

 特に、『オプジーボ』は例外的に薬価改定を待たずに価格引き下げをするべきだという意見もあり、大きな議論となっています。

 2016年11月10日、政府は『オプジーボ』の薬価を最大で50%引き下げることを発表し、今後は中医協の協議によって最終的な薬価が決まることとなっています(毎日新聞 11/10(木) 7:30配信)。


薬の値段が高騰する理由~需要の「数」が少ない薬

 対象となる患者数の少ない病気に対しては、臨床試験を行うことも困難で、またたとえ新薬を開発しても十分な販売数が見込めず、経営判断としては莫大な研究・開発費を投資することが難しいのが現実です。

 しかし、患者数の多い少ないに関わらず、病気の治療には薬が必要不可欠です。
 そのため、こうした希少な疾病に対する医薬品の研究・開発を推進するために、先進国では「希少疾病用医薬品(オーファンドラッグ)」の基準を設け、承認審査の簡略化や公的資金の援助などの支援を行っています。

希少疾病用医薬品の研究開発と安定供給
 また、こうした需要「数」の少ない薬を安定生産・供給するためには、どうしても薬の単価が高くなる傾向があります。

 
※日本での「希少疾病用医薬品」の基準 1)
 1. 本邦における対象者数が5万人未満であること
 2. 医療上、特にその必要性が高いこと
 3. 開発の可能性が高いこと

 1) 厚生労働省医政局 「希少疾病用医薬品等ガイド(2014)」


※日本の「希少疾病用医薬品」と、対象疾患の例
『オプジーボ(一般名:ニボルマブ)』:根治切除不能な悪性黒色腫、ホジキンリンパ腫
『ネスプ(一般名:ダルベポエチン)』:骨髄異形成症候群に伴う貧血
『ストロメクトール(一般名:イベルメクチン)』:糞線虫症
『ペンタサ(一般名:メサラジン)』:潰瘍性大腸炎(重症を除く)、クローン病
『エパデール(一般名:イコサペント酸エチル)』:ベーチェット病
『ホスリボン(一般名:ヒドロキシプロピルセルロース + ステアリン酸マグネシウム)』:低リン血症
『アバスチン(一般名:ベバシズマブ)』:子宮頸がん
『サレド(一般名:サリドマイド)』:らい性結節性紅斑、再発又は難治性の多発性骨髄腫
『レブラミド(一般名:レナリドミド)』:再発又は難治性の成人T 細胞白血病リンパ腫』
新型インフルエンザ(H5N1)のワクチン:新型インフルエンザの予防



希少疾病用医薬品に適応が追加された場合~『オプジーボ』の何が問題となっているのか

 『オプジーボ』は、もともとは「根治切除不能な悪性黒色腫(メラノーマ)」に対する「希少疾病用医薬品」として登場しています。
 しかし、2015年12月に「切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」、2016年8月に「根治切除不能又は転移性の腎細胞癌」といった適応も追加され2)、より多くの患者に使われる薬となりました。
オプジーボ~適応追加と市場拡大
 2) オプジーボ点滴静注 添付文書

 こうした適応追加があると、通常は薬価改定の際に市場拡大を考慮して薬の値段は下げられます。ところが、『オプジーボ』の適応が追加されたのが2015年の末だったことから、2016年の薬価改定に間に合わず、こうした市場拡大が考慮されない値段のままになっています。

 今回話題になっているのは、この『オプジーボ』の薬価を、2018年の次の薬価改定を待たずに引き下げるべきだという意見があがっていることです。
 これは、高額なままの『オプジーボ』を多くの患者に使用すると、既に厳しい医療財政が更に悪化し、日本の医療保険全体が破綻してしまうということを危惧しているからです。



国民皆保険の維持と、製薬企業の開発意欲を削がないことの両立

 「たくさん売れるようになったのだから、値段を下げろ」というのは、あくまで日本の医療保険、国民皆保険の制度から見た一方的な意見です。
 製薬企業からすれば、「多くの人に届けられる良い薬を作ったのに、その利益を受けられない」ということになります。

 そもそも、2年に1回の薬価改定のルールを踏まえて企業は経営方針を決めています。にも関わらず、その根本のルールを急に変えられては、企業戦略そのものを見直さなければなりません。
薬価改定のルールと、変則的な薬価改定の弊害
 このような変則的なルール変更の前例が作られてしまうと、今後、製薬企業は非常に企業戦略を立てづらくなり、新薬の研究・開発に対して二の足を踏んでしまう事態となりかねません。


 いま、こうした国民皆保険の維持と、製薬企業の開発意欲を削がないことの両立は、どうすれば実現できるのかが議論されています(※先に、もっと他に削る部分があるだろうという意見もあります)。



薬局の有効利用で医療費抑制を~一人一人ができること

 国の医療費の高騰は、何も高額な薬が使われていることだけが原因ではありません。
 不必要な薬の処方、重複した薬の処方、家で薬を余らせていることなど、薬の無駄は多くの家庭で生じています。
医療費高騰の原因~高額薬剤と薬局利用で防げるもの
 医師・薬剤師とはしっかりとコミュニケーションをとって最適な薬を選び、薬をもらう際にはお薬手帳を利用して重複を避け、家に残っている薬は「ブラウンバッグ運動」などを利用して整理するなど、一人一人の小さな心がけによっても、医療費は抑えることができます。

 そして、このような薬の整理や管理に対して手伝いが必要な場合には、ぜひ薬局の薬剤師を頼って欲しいと思います。

※特に、重複投与を是正することで年間6000億円の医療費を削減できることが報告されています(医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会)。



+αの情報①:新規作用機序医薬品の最適な使用を進めるためのガイドライン

 国も、こうした市場規模の大きな新薬に対しては、個別の「新規作用機序医薬品の最適な使用を進めるためのガイドライン」を定めることとなっています。

 平成28年度は上記の『オプジーボ』と抗PCSK9抗体の『レパーサ』を対象とし、患者の選択基準や医師・医療機関等の要件などが明記され、この要件を満たさない場合には保険が適用されないなど、より厳正に使用するよう制限を設けるとされています。



+αの情報②:『オプジーボ』が効くかどうかを、予め確認できるように

 現状、『オプジーボ』が効くかどうかは、使ってみないとわからない部分があります。そのため、使ってみたが効かなかった、副作用だけが起こった、といったようなケースが起こっています。

 こうしたハズレは本人にとっても、医療費の観点からも、非常に負担の大きなものです。

 そこで、現在世界中で「『オプジーボ』が効くかどうかを、予め確認できるような方法」の研究が進んでいます。世界に先駆けて、京都大学が9型ヘルパーT細胞(Th-9)がその指標となる可能性を指摘し、話題を呼んでいます3)。

 3) 京都新聞 「がん新薬「オプジーボ」作用の一端解明 京大グループ」10月24日(月)8時51分配信



 ~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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