『ジスロマック』と『クラリス』、同じマクロライド系抗菌薬の違いは?~効果・値段・相互作用リスクの差
記事の内容
回答:値段の安い『クラリス』、相互作用の少ない『ジスロマック』
『クラリス(一般名:クラリスロマイシン)』と『ジスロマック(一般名:アジスロマイシン)』は、どちらもマクロライド系の抗菌薬です。
『クラリス』は、値段が安い薬です。
『ジスロマック』は、相互作用の影響が少ない薬です。

基本的な効果に大きな違いはないため、適応症や菌種のほか、経済的負担と相互作用リスクのどちらを低く抑えるかなどで使い分けるのが一般的です。
回答の根拠①:値段の安い「クラリスロマイシン」~効果は大きくは変わらない
「クラリスロマイシン」と「アジスロマイシン」は、どちらもマクロライド系に分類される抗菌薬です。呼吸器感染症やカンピロバクターなどによく用いられますが、これらの感染症の治療効果に大きな違いは確認されていません1,2,3)。
ただし、「クラリスロマイシン」の方が値段は安いため、経済的負担を抑えて治療を行うことができます。

※薬価の比較 (2025年改訂時)
『クラリス』 :200mg錠(24.90)、50mg(21.00)、小児用ドライシロップ(85.30)
『ジスロマック』:600mg錠(484.70)、250mg錠(145.40)、小児用細粒(137.80)、小児用カプセル100mg(95.90)
1) J Antimicrob Chemother.31 Suppl E:137-46,(1993) PMID:8396085
2) J Antimicrob Chemother.31 Suppl E:153-62,(1993) PMID:8396087
3) Antibiotics (Basel).13(10):969,(2024) PMID:39452235
回答の根拠②:相互作用の少ない「アジスロマイシン」~CYP3A4が関与しないマクロライド系抗菌薬
「クラリスロマイシン」は、多くの薬の代謝・分解に関わる代謝酵素「CYP3A4」の働きを阻害する作用があります。そのため、不用意に他の薬と一緒に使うと、その薬の血中濃度を大きく上昇させ、思わぬ副作用を引き起こすことがあります。
このことから、「クラリスロマイシン」は非常に多くの薬と「併用禁忌」に指定されています4)。
一方で「アジスロマイシン」は、この代謝酵素「CYP3A4」への影響が少ないため、こうした相互作用を起こすリスクが低く5)、「併用禁忌」の薬もありません6)。

※「CYP3A」の阻害率(IR)7)
クラリスロマイシン:0.88
アジスロマイシン :0.11
実際、「クラリスロマイシン」では血中濃度の大幅な上昇が起こる『ハルシオン(一般名:トリアゾラム)』や『テグレトール(一般名:カルバマゼピン)』といった薬でも、「アジスロマイシン」であればほとんど影響しないことが報告されています5)。
また、DOAC(直接作用型経口抗凝固薬)と併用した場合にも、「クラリスロマイシン」より「アジスロマイシン」の方が出血リスクは低く抑えられたという報告もあります8)。
これらの点から、「アジスロマイシン」は「クラリスロマイシン」よりも他の薬の効果や安全性に影響を与えにくい薬と言えます。
4) クラリス錠 インタビューフォーム
5) Br J Clin Pharmacol.50(4):285-95,(2000) PMID:11012550
6) ジスロマック錠 インタビューフォーム
7) 日本医療薬学会「医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド」
8) JAMA Intern Med.180(8):1052-1060,(2020) PMID:32511684
相互作用の影響が”全く無い”わけではない
「アジスロマイシン」も、『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』や『ネオーラル(一般名:シクロスポリン)』などの血中濃度をやや上昇させる可能性があります2,5,9)。
「クラリスロマイシン」などに比べて相互作用リスクが低いのは確かですが、他の薬へ全く影響しないわけではないため、厳密な血中濃度のコントロールが必要な薬では、注意が必要です。
9) Clin Ther.35(4):425-30,(2013) PMID:23453406
「アジスロマイシン」は、服用回数も少ない
「アジスロマイシン」は白血球などの食細胞に取り込まれた後、感染部位に集まって長時間留まる性質があります。そのため3日間服用するだけで、効果が7日間続きます6)。
治療期間中は1日2回で服用を続けなければならない「クラリスロマイシン」よりも、服薬の手間は少なくて済みます。
※7日間の治療を行う服用回数・期間
アジスロマイシン :1日1回を3日間(計3回)
クラリスロマイシン:1日2回を7日間(計14回)
薬剤師としてのアドバイス:子ども用の粉薬を美味しく飲む方法
「クラリスロマイシン」や「アジスロマイシン」は薬そのものに強い苦味がある4,6)ため、子ども用の粉薬ではこの苦味を封じ込めるための製剤工夫と甘いコーティングが施されています。そのため、通常は特に苦味を感じずに服用することができます。
しかし、酸性のものに触れると薬が溶け出してしまうため、薬を「オレンジジュース」や「スポーツドリンク」・「乳酸飲料」などと混ぜると、すぐに苦味が現れることになります6,10)。
「水」であればこうした問題は起こりませんが、「水」と混ぜてから3分ほど経過すると徐々に薬が溶け出し、苦味が現われることがわかっています10)。そのため、「水」に薬を溶かすのも”服用する直前”に行うこと、薬を服用した後は口の中に薬の粒が残らないように、水をもう1口飲んで口の中をすすぐことをお勧めします。

なお、子ども用の「クラリスロマイシン」や「アジスロマイシン」の粉薬を何かと混ぜる場合には、「バニラアイス」や「練乳」などを活用するのがお勧めですが、4~5歳くらいになってきたら、苦味を心配する必要のない、小児用の小さな錠剤(直径6mm×厚さ3.5mm)やカプセル剤(直径5.6mm×長さ15.7mm)に挑戦してみる、というのも手です11)。
10) 医療薬学.35(6):423-30,(2009)
11) Pediatrics.123(2):e235-8,(2009) PMID:19171575
ポイントのまとめ
1. 『ジスロマック(アジスロマイシン)』では、相互作用のリスクを低く抑えた治療ができる
2. 『クラリス(クラリスロマイシン)』では、経済的負担を抑えた治療ができる
3. マクロライド系抗菌薬の子ども用粉薬は苦味を感じやすいため、服薬方法に注意
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
| クラリスロマイシン | アジスロマイシン | |
| 先発医薬品名 | クラリス/クラリシッド | ジスロマック |
| 薬効分類 | 14員環マクロライド系抗菌薬 | 15員環マクロライド系抗菌薬 |
| 基本的な用法 | 1日2回 | 1日1回 |
| 併用禁忌の薬 | CYP3A4で代謝される多くの薬 | (なし) |
| CYP3Aの阻害率(IR) | 0.88 | 0.11 |
| 小児用の粉薬を服用する際に 避けた方が良い飲料 | 酸性飲料 (苦味が強くなる) | 酸性飲料 (苦味が強くなる) |
| 国際登場年 | 1989年 | 1991年 |
| 妊娠中の安全性評価 | オーストラリア基準【C】 | オーストラリア基準【B1】 |
| 授乳中の安全性評価 | MMM【L1】 | MMM【L2】 |
| 世界での販売状況 | 世界206の国と地域 | 世界141ヵ国 |
| 剤型の規格 | 錠(200mg,小児用50mg)、ドライシロップ(10%) | 錠(250mg,600mg)、小児用カプセル(100mg)、小児用細粒(10%)、点滴静注用 |
| 配合剤 | 『ボノサップ』『ラベキュア』 ※ピロリ除菌の薬 | (なし) |
| 先発医薬品の製造販売元 | 大正製薬 | ファイザー |
| 同成分のOTC医薬品 | (販売されていない) | (販売されていない) |
+αの情報①:マクロライド系抗菌薬の少量・長期投与
マクロライド系抗菌薬には炎症を抑える作用があり、実際に「びまん性汎細気管支炎」に対して少量・長期投与することが効果的とされています12)。
また、「アジスロマイシン」では、こうした少量・長期投与が慢性閉塞性肺疾患(COPD)の予後改善にも効果が報告されている13)ことから、抗菌作用に留まらない薬の可能性が期待されています。
しかし、こうした使用法は耐性菌を増やす原因にもなっている14)ことが課題になっています。
12) Am J Respir Med.1(2):119-31,(2002) PMID:14720066
13) N Engl J Med.365(8):689-98,(2011) PMID:21864166
14) Chest.153(5):1125-1133,(2018) PMID:29427576
+αの情報②:妊娠中の安全性は「ペニシリン系」の方が優れる
マクロライド系抗菌薬はいずれも、胎児の重い先天性奇形のリスクには影響しないとされています15)。ただし、最も安全と評価されているペニシリン系抗菌薬に比べると、心血管系の先天異常リスクがやや増加する可能性がある、という報告もある16)ため、その優先順位は慎重に考える必要があります。
※妊娠中の安全性評価(オーストラリア基準)
クラリスロマイシン:【C】
アジスロマイシン :【B1】
エリスロマイシン :【A】
アモキシシリン :【A】
15) Pharmacoepidemiol Drug Saf.24(12):1241-8,(2015) PMID:26513406
16) BMJ.368:m331,(2020) PMID:32075790
+αの情報③:マクロライド系抗菌薬で進む耐性化
マクロライド系抗菌薬は、日本で非常によく使われている抗菌薬です。特に「クラリスロマイシン」は小児科・耳鼻科での使用頻度も高いため、薬が効きにくい耐性菌の出現も増えており、大人になってからのピロリ除菌が失敗する主な要因にも挙げられています。
耐性菌が生まれないようにするには、抗菌薬を適切に使い、耐性化のリスクをできるだけ低く抑えることが重要です。
※抗菌薬の適正使用に向けて、個人レベルでできること
①用法・用量を正しく守って使うこと
②症状が良くなっても途中で服薬を止めず、最後まで飲み切ること
③家族や兄弟間で抗菌薬の譲り渡しをしないこと
④飲み残しの抗菌薬を自己判断で使わないこと
⑤風邪で抗菌薬を欲しがらないこと
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。











【加筆修正】回答の根拠④、+αの情報③
「クラリスロマシイン」の妊娠中の安全性について、オーストラリア基準が【C】になっていましたが、正しくは【B3】であったため修正しました(【C】はFDA基準)。
また、マクロライド系抗菌薬はペニシリン系抗菌薬と比べて奇形リスク増加と関連しているとの報告があったため、+αの情報③にその旨を加筆しています。
回答の根拠②にあるジスロマック錠の用法が1日2回になってますが、1日1回では?
ご指摘ありがとうございます、1日1回の間違いですねすみません。
該当部分、修正致しましたm(__)m