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知っておくべきこと 薬物動態学

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手術前の休薬期間は、何を基準に決めるの?~可逆阻害、非可逆阻害の違い

回答:血小板や、凝固因子への影響が消えるまでの時間

 「抗血小板薬」は血小板を、「抗凝固薬」は血液凝固因子を、それぞれ阻害することで血が固まるのを防ぎます。
 しかし、薬によってその阻害効果がいつまで続くかが大きく異なります。そのため、手術前の休薬期間も薬によってバラバラになります。

 「抗血小板薬」や「抗凝固薬」には、血液中の薬の濃度が下がっても効果が持続するものがあるため、単純に血中濃度から計算することはできません。

回答の根拠:可逆阻害と、非可逆阻害

 薬には、以下の2タイプがあります。

1. 血液中の薬の濃度が下がると、薬の効果も切れてくるタイプ
2. 血液中の薬の濃度が下がっても、しばらく薬の効果が続くタイプ

 この違いは、薬の作用が「可逆的」か「非可逆的」かで生まれます。
可逆的と非可逆的~水と紙を例に
 「可逆的」とは”水を凍らせると氷になり、氷を溶かすと水になる”ように、どちらの物質にも行き来ができるものを言います。
 「非可逆的」とは、”紙を燃やすと灰になるが、灰を紙に戻すことはできない”ように、一方通行しかできないものを言います。

 「抗血小板薬」と「抗凝固薬」でも同じように、薬が血小板や凝固因子を阻害した後、その血小板や凝固因子がいつでも元に戻れるのか、元に戻れないのか、といった違いがあります。

 いつでも元に戻れる「可逆阻害」の場合、血液中の薬の濃度が下がると、効果が切れてきます。
 元には戻れない「非可逆阻害」の場合、血液中の薬の濃度が下がっても、しばらく効果が続きます。

 「非可逆阻害」によって阻害した場合、血小板や凝固因子に寿命が来て、新しく生まれ変わったときに効果が切れることになります。

 ※胃酸を抑えるPPIも同様に「非可逆阻害」をします。

詳しい回答①:可逆阻害の薬は、休薬期間が短い

 「可逆阻害」によって血液を固まりにくくした場合、薬がなくなると自然に元に戻ります。

◆『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』
作用のタイプ:凝固因子である「ビタミンK」を、可逆阻害
休薬期間の目安:3~5日 ※INRの確認が必須 1,2)

 1) エーザイ(株) 「Warfarin適正使用情報(第3版)」
 2) 日本循環器学会 「循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン2008」

◆『プラザキサ(一般名:ダビガトラン)』
作用のタイプ:凝固因子である「トロンビン」を、可逆阻害
休薬期間の目安:1~4日 ※手術の手技や腎機能によって変える 3,4)

 3) プラザキサカプセル 添付文書
 4) 日本循環器学会 「心房細動治療(薬物)ガイドライン2013年改訂版」 

◆『イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)』
作用のタイプ:凝固因子である「第Xa因子」を、可逆阻害
休薬期間の目安:24時間以上 4,5)

 5) イグザレルト錠 添付文書

◆『エリキュース(一般名:アピキサバン)』
作用のタイプ:凝固因子である「第Xa因子」を、可逆阻害
休薬期間の目安:24~48時間以上 6)

 6) エリキュース錠 添付文書

◆『プレタール(一般名:シロスタゾール)』
作用のタイプ:血小板に対して、可逆阻害
休薬期間の目安:3日 2,4)

 

その他、添付文書やガイドライン等に具体的な日数の指示はないが、リスクに応じて休薬期間を設ける場合があるもの(可逆阻害)

・『アンプラーグ(一般名:サルポグレラート)』・・・1~2日程度
・『ケタス(一般名:イブジラスト)』・・・3日程度
・『コメリアンコーワ(一般名:ジラゼプ)』・・・2~7日程度
・『ロコルナール(一般名:トラピジル)』・・・2~4日程度
・『ベガ(一般名:オザグレル)』・・・1日程度
・『ペルサンチン(一般名:ジピリダモール)』・・・2日程度
・『セロクラール(一般名:イフェンプロジル)』・・・1~2日程度
・『ドルナー(一般名:ベラプロスト)』・・・1日程度
・『オパルモン(一般名:リマプロスト)』・・・1日程度

詳しい回答②:非可逆阻害の薬は、休薬期間が長い

 「非可逆阻害」によって血小板を阻害する「抗血小板薬」では、休薬期間が7~14日で設定されています 2,4,7)。これは、血小板の寿命が7~10日であることに由来しています。

 7) 日本手術医学界 「手術医療の実践ガイドライン 改訂版2013」

◆『バイアスピリン(一般名:アスピリン)』、『バファリン(一般名:アスピリン、ダイアルミネート)』
作用のタイプ:血小板に対して、非可逆阻害
休薬期間の目安:7~14日
 
『パナルジン(一般名:チクロピジン)』
作用のタイプ:血小板に対して、非可逆阻害
休薬期間の目安:7~14日

『プラビックス(一般名:クロピドグレル)』
作用のタイプ:血小板に対して、非可逆阻害
休薬期間の目安:7~14日

◆『コンプラビン配合錠(一般名:アスピリン、クロピドグレル)』
作用のタイプ:血小板に対して、非可逆阻害
休薬期間の目安:7~14日 ※アスピリン、クロピドグレル単剤と同じ

『エパデール(一般名:イコサペント酸)』
作用のタイプ:血小板に対して、非可逆阻害
休薬期間の目安:7~10日 7)

『ロトリガ(一般名:イコサペント酸、DHA)』
作用のタイプ:血小板に対して、非可逆阻害
休薬期間の目安:7~10日 ※イコサペント酸と同じ

薬剤師としてのアドバイス:手術のリスクと休薬のリスクから、個別に判断する

 「抗血小板薬」や「抗凝固薬」、他に血液を固まりにくくする作用のある薬について、上記の目安はあくまで基準です。実際には、手術のリスクと休薬のリスクのどちらが大きいかを考えて、個別に休薬期間を調節します。

 開腹手術などの出血が多くなる手術では、ここに記載した薬以外のものでも休薬期間を設けることもあります。また、内視鏡手術などの出血が少ない手術では、休薬期間を設けないこともあります。

 個別の休薬の有無や期間については必ず主治医の指示に従い、自己判断で薬を中断しないようにしてください。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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