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知っておくべきこと 市販薬・OTC

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風邪薬で風邪は早く治りますか?~風邪薬の効果と使いどころ、上手な選び方

回答:早く治ることはない

 「風邪」は主にウイルスによる感染症ですが、風邪薬(総合感冒薬)にウイルスを退治する作用はありません。そのため、風邪薬を飲んでも、風邪は早く治るわけではありません。

 風邪薬は、あくまで休養(睡眠や食事)に支障があるような発熱や喉の痛み、鼻水、咳といったつらい症状を和らげる目的で使います。ただし、1つの商品に非常に多くの薬が配合されているため、それだけ副作用のリスクも多いことに注意する必要があります。なお、休養に支障がないのであれば、無理に薬を飲む必要はありません。

 

回答の根拠①:風邪の原因と風邪薬の作用

 いわゆる「風邪」の原因となる病原体の9割近くはウイルスです1)。現在市販されている風邪薬(総合感冒薬)に、このウイルスを退治する作用はありません。そのため、風邪薬を飲んでも、風邪が治るわけではありません。
 風邪薬には、熱や痛みに効果のある解熱鎮痛薬、くしゃみや鼻水に効果のある抗ヒスタミン薬、咳を抑える咳止めなどの成分が配合されているため、飲むと一時的にこれらの症状は和らぐことはあります。しかし、たとえば熱を下げても風邪そのものが早く治ることはない2)ため、風邪薬に風邪を早く治す効果は期待できません。
 また、「予め風邪薬を飲んでおけば風邪をひかない」「風邪薬には風邪を予防する効果がある」「風邪薬を飲まなければ風邪は治らない」といったこともありません。あくまで、風邪薬は休養の邪魔になるような不快な症状を和らげるために使う薬です。

 1) 日本呼吸器学会 「市民のみなさまへ 「かぜ症候群」」
 2) Cochrane Database Syst Rev. 2015 Sep 21;(9):CD006362 PMID:26387658

 

回答の根拠②:風邪薬を使う目的と、使いどころ

 風邪薬は、「一般的な風邪の症状に対して、効果が期待できそうな薬を全て詰め込んだ薬」と言えます。そのため、およそどんな人のどんな風邪であっても、1つの薬だけでだいたいは対応できるようになっています。これは、既に風邪でつらい状態で早く薬を買って帰りたいとき、どんな風邪にも対応できる常備薬が欲しいときには、非常に便利です。

※風邪薬に配合されている薬の成分と、期待する効果の例
・解熱鎮痛薬   :高熱によるつらさ、喉や関節の痛みを和らげる
・抗ヒスタミン薬 :くしゃみ、鼻水といった鼻症状を和らげる
・咳止め(鎮咳薬):咳の症状を和らげる
・去痰薬     :痰や鼻水の粘度を下げ、粘膜を保護する
・血管収縮薬   :鼻づまりの症状を和らげる
・気管支拡張薬  :息苦しさを解消する(※ただし薬が欲しいほどの息苦しさがある時は病院を受診した方が良い)

 

配合されている薬が多い分、負うべき副作用リスクも大きい

 しかし、薬には副作用がつきものです。これだけ多種多様な薬を詰め込んでいる以上、自分にとっては必要のない薬まで飲むことになることも多い上、色んな副作用リスクも負わなければなりません。

 基本的に風邪薬に期待できる効果は「一時的な症状の緩和」でしかないため、大きなリスクを冒してまで使うようなものではありません。下記のような条件に当てはまる人は、安易に風邪薬を使うことは避け、医師・薬剤師に相談の上、自分にとって安全な薬を個別に選ぶようにしてください。

【年齢によるリスク】
2歳未満の子ども

・抗ヒスタミン薬:熱性けいれんのリスクを高める恐れがある3,4)

12歳未満の子ども
・咳止め(ジヒドロコデインリン酸):稀に呼吸抑制という危険な副作用を起こす恐れがある5)

高齢者
・抗ヒスタミン薬:自覚症状なく抱えていた前立腺肥大による排尿障害や緑内障の症状を悪化させ、尿が出なくなる・緑内障の急性発作を起こすといったトラブルを起こす恐れがある6,7)
・咳止め(ジヒドロコデインリン酸):便秘や眠気の副作用が大きなトラブルに繋がる恐れがある
・解熱鎮痛薬(NSAIDs):胃を荒らしやすいほか、普段の薬との組み合わせによっては腎臓に大きな負担をかけることがある8)

【妊娠・授乳中のリスク】
妊娠中

・解熱鎮痛薬(NSAIDs):妊娠20週以降の服用は、胎児に悪影響を及ぼす恐れがある9,10)
・カフェイン:過剰摂取は流産リスクを高める恐れがある11)
・多剤併用:風邪薬には、妊娠中の安全性がきちんと評価されていない薬が多く含まれているため、避けた方が良い

授乳中
・咳止め(ジヒドロコデインリン酸):乳児が呼吸抑制を起こす恐れがある12)
・多剤併用:風邪薬には、授乳中の安全性がきちんと評価されていない薬が多く含まれているため、避けた方が良い

【症状】
インフルエンザの可能性がある

・NSAIDs(特にアスピリン):特に小児では、インフルエンザ脳症・ライ症候群のリスクを高める恐れがある13)

痰の絡む咳をしている
・咳止め(ジヒドロコデインリン酸):痰の粘度を高め、症状を悪化させる恐れがある14)

【基礎疾患】
前立腺肥大による排尿障害がある
・抗ヒスタミン薬:症状を悪化させ、尿が出なくなる(尿閉)恐れがある6)

閉塞隅角緑内障がある
・抗ヒスタミン薬:症状を悪化させ、緑内障の急性発作を起こす恐れがある7)

循環器疾患(高血圧や不整脈)、糖尿病、甲状腺疾患などを患っている
・気管支拡張薬:症状を悪化させる恐れがある15)
・血管収縮薬:症状を悪化させる恐れがある16)

ピリンアレルギー
・イソプロピルアンチピリン:アレルギーの原因になる

アスピリン喘息
・解熱鎮痛薬:アレルギーの原因になる

不眠の症状がある
・カフェイン:不眠の症状を悪化させ、休養の邪魔になる17)

【生活状況】
自動車を運転する必要がある
大事な試験や大会・仕事を控えている

・抗ヒスタミン薬:集中力の低下で成績が悪化する恐れがある18)、眠気や異常な眩しさを感じることがある
・咳止め(ジヒドロコデインリン酸):集中力の低下を起こす、眠気を感じることがある
・咳止め(デキストロメトルファン):集中力の低下を起こす、眠気を感じることがある

スポーツ選手
・抗ヒスタミン薬:集中力の低下を起こす、眠気や異常な眩しさを感じることがある
・気管支拡張薬:ドーピング違反19)
・血管収縮薬:ドーピング違反(※特に「トリメトキノール」は常時禁止薬物19))
・生薬:ドーピング違反の恐れ19)

 

 3) 脳と発達.46(1):45-6, (2014)
 4) 日本小児神経学会「熱性けいれん診療ガイドライン2015」CQ7-1
 5) 厚生労働省 薬生安発 0704 第2号「コデインリン酸塩水和物又はジヒドロコデインリン酸塩を含む医薬品の「使用上の注意」改訂の周知について」
 6) 薬学雑誌.128(9):1301-9,(2008)
 7) 緑内障診療ガイドライン 第4版
 8) J Clin Pharm Ther.44(1):49-53,(2019) PMID:30014591
 9) 日本産科婦人科学会 「産婦人科診療ガイドライン-産科編2017」
 10)  FDA:Nonsteroidal Anti-Inflammatory Drugs (NSAIDs): Drug Safety Communication – Avoid Use of NSAIDs in Pregnancy at 20 Weeks or Later
 11) Hum Reprod.18(12):2704-10,(2003) PMID:14645195
 12) Lancet.368(9536):704,(2006) PMID:16920476
 13) 日本小児科学会 「インフルエンザ脳炎・脳症における解熱剤の影響について」 (2000)
 14) コデインリン酸塩散10%「タケダ」インタビューフォーム
 15) ディレグラ配合錠 インタビューフォーム
 16) メチエフ散 インタビューフォーム
 17) Ann Intern Med.163(3):191-204,(2015) PMID:26054060
 18) J Allergy Clin Immunol.120(2):381-7,(2007) PMID:17560637
 19) 世界アンチ・ドーピング規定 2022年禁止表国際基準

 

薬剤師としてのアドバイス:風邪薬は便利だが、自分にとってリスクの高いものは避けて選ぶ

 風邪薬は、じっくりと薬を選んでいる余裕がないときや面倒なとき、どんな症状の風邪にも対応できる常備薬が欲しいとき、もしくは熱や痛み・鼻水・咳の症状が全部つらいときには便利な選択肢になりますが、1つの商品に非常にたくさんの薬が配合されていることを念頭に、自分にとってリスクを高い商品を避けて選ぶ(上記参照)必要があります。
 「テレビCMで見たから」「安売りしているから」「パッケージが綺麗だから」といった理由で安易に風邪薬を選ぶと、上記のような思わぬ副作用に見舞われることもあります。場合によっては、取り返しのつかない健康被害を受けてしまうこともあるため、注意してください。

 なお薬とは本来、自分にとってどうしても必要なものだけを選び、必要最低限のものを使うのが原則です。そのため基本的には、およそどんな人のどんな風邪にでも対応できるくらい色んな薬を詰め込んだ風邪薬よりも、自分の状態や症状にあわせて、必要最低限の薬を個々に選んでいくことをお勧めします。


風邪症状を和らげるための薬を選ぶ際は…

※新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対応についてはこちら

 

【熱や痛みを何とかしたい場合の例】
・解熱鎮痛薬の「アセトアミノフェン」だけの商品

 →(成人用)『タイレノールA』、『ラックル速溶錠
 →(小児用)『バファリンルナJ』(7歳~)、『小児用バファリンCⅡ』(3歳~)、『ムヒのこども解熱鎮痛顆粒』(1歳~)
※妊娠・授乳中、高齢者、インフルエンザの時でも使えます

・「アセトアミノフェン」より強力な「イブプロフェン」だけの商品
 →『リングルアイビーα200
解熱鎮痛薬には、リスクの高い「催眠鎮静薬」を配合した商品も多いことに注意
※新型コロナウイルス感染症の時に使っても、顕著なリスクはなさそうだという報告があるため、どうしても痛みが強い場合は選択肢にしても良いと考えられます

・保冷剤で首や脇を冷やす
→物理的に冷やすことでも、高熱による辛さは軽減できます
※冷感ジェルシートはスーッとして心地よいが、熱を下げる効果はないことに注意。特に乳幼児では窒息事故の報告があるため×

 

【鼻水と鼻づまりを何とかしたい場合の例
・抗ヒスタミン薬と血管収縮薬の商品
→『コルゲンコーワ鼻炎フィルムクール』、『エスタック鼻炎ソフトニスキャップ

・鼻水の出る風邪症状によく使われる漢方薬
→『小青竜湯エキス顆粒Aクラシエ

・生理食塩水の点鼻
→それなりの効果が期待できます
→自作しても良いですが、安価な商品も販売されています(例:『アレルシャット 鼻シャワー 鼻洗浄 』)

 

【痰の絡む咳を何とかしたい場合の例
・痰の症状を悪化させない咳止め「デキストロメトルファン」だけの商品
→『メジコンせき止め錠Pro

・「カルボシステイン」や「アンブロキソール」といった痰切りだけの商品
→『ストナ去たんカプセル』、『クールワン去たんソフトカプセル
※痰を切るだけでなく、咳の症状も少し和らげる効果があります

・ハチミツ
→「デキストロメトルファン」に劣らない効果を期待できますが、1歳未満には禁忌

 

【喉の痛みを何とかしたい場合
→基本的に「熱や痛みを何とかしたい場合の例」と同じ

・「カルボシステイン」や「アンブロキソール」といった痰切りだけの商品
→『ストナ去たんカプセル』、『クールワン去たんソフトカプセル
※痰を切るだけでなく、喉の痛みも少し和らげる効果があります

・のど飴
→十分に良い選択肢になりますので、お気に入りのものを選ぶと◎

 

ポイントのまとめ

1. 風邪薬で、風邪の症状は和らぐが、風邪が早く治るわけではない
2. 風邪薬には非常にたくさんの成分が配合されているため、副作用のリスクも大きい
3. 風邪薬は便利だが、自分にとってリスクの高い商品を選ばないように気をつける

 

+αの情報①:「ただの風邪」と「ヤバそうな風邪」はどう見分ける?

 「風邪は万病のもと」と言いますが、「ただの風邪」と「風邪ではない何か危険な疾患の初期症状」の見分けは、非常に難しいのが実情です。そのため、自分でもできる基本的な見分け方としては、下記のような症状や兆候に注意しておくのが良いと考えられます。

※「ただの風邪」ではなさそうな要素
・日に日に悪化している
・呼吸が荒い(1分間に25回を超えるような)
・咳で胸が痛む、痰に血が混じる、体重が減ってきた
・座った状態で、アゴが胸につかない
・喉の痛みと併せて、口を開きにくい、息苦しい
・発熱と併せて、1日中痰が出て、寝汗がある
・鼻水や喉の痛みがほとんどなく、咳だけが異様にひどい
・鼻水や咳の症状がほとんどなく、喉だけが異様に痛む
・意識がもうろうとしている、反応が鈍い
・5日以上、症状が続いている、食事がとれない
・一旦治ったのに、ぶり返してきた

 

+αの情報②:風邪の予防には、どんなことをすれば良い?

 一般的な感染症の予防法として、最も効果が高いのは「手洗い」です。ただし、この「手洗い」とは指先を少し濡らすようなものではなく、流水と石鹸でしっかりと行う「手洗い」のことです。
 
 簡単なアルコール消毒の方が人気ですが、効果は「手洗い」と変わらない21)ため、手を洗える環境では手洗いをした方が安上がりで、肌も荒れにくいです。また、しっかりと手を洗えれば、アルコール消毒を重ねて行う必要はありません。手荒れが気になる方は、「ワセリン」などの安価なハンドクリームでケアする21)ことをお勧めします。

21) Pediatr Nurs.33(4):368-72,(2007) PMID:17907739
22) BMC Dermatol.6:1,(2006) PMID:16476166

 なお、人や生活空間への消毒液の噴霧は、感染予防にならないどころか健康被害に繋がる恐れがあるため、WHO(世界保健機関)や厚生労働省も「行わない」ように注意喚起を行っています23)。また、空間除菌をうたう商品も、感染予防効果は認められておらず24,25)、むしろ健康被害の報告だけがある26,27)状態のため、「行わない」ことをお勧めします。
 こうした効果不確かな方法で「対策を行っている気分」になると、本来行うべき手洗いや換気などが疎かになりますので、注意してください。

 23) 新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について(厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ)
 24) 日本環境感染学会誌.32(5):243-9,(2017)
 25) 日本環境感染学会誌.32(4):222-226,(2017)
 26) 独立行政法人 国民生活センター「二酸化塩素による除菌をうたった商品」(※PDF)
 27) 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 Injury Alert(傷害速報)「No. 40 ウイルス除去と称されている製品による中毒」(※PDF)

 

+αの情報③:家にある抗生物質を使えば、風邪は治る?

 風邪の大部分はウイルスによるもののため、細菌を退治する「抗生物質(抗菌薬)」を使っても治りません。
 病院から処方された抗生物質(抗菌薬)を、処方された時に最後まできちんと飲み切らなかったり、そうして残った薬を中途半端に使ったりすると、薬が効きにくい「耐性菌」を生み出す原因になります。そのため、処方された際には症状が治まってきても必ず最後まで飲み切ること、何かの事情で余った薬があっても自己判断では使わないことを強くお勧めします。

 

~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)

 

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